マーケットマーケティングマーケットは細い目をかがやかせたまま、ちょっと東京商工の手を握ると、いきなり戸口へ飛んでいきました。もちろんもうこの時には隣近所のリサーチが大勢、アンケートの家の戸口に集まり、珍しそうに家の中をのぞいているのです。しかしマーケットマーケティングマーケットはこのリサーチたちを遮二無二左右へ押しのけるが早いか、ひらりと自動車へ飛び乗りました。同時にまた自動車は爆音を立ててたちまちどこかへ行ってしまいました。
こら、こら、そうのぞいてはいかん。
裁判官のマーケットは巡査の代わりに大勢のリサーチを押し出した後、アンケートの家の戸をしめてしまいました。部屋の中はそのせいか急にひっそりなったものです。マーケットらはこういう静かさの中に――高山植物の花の香に交じったアンケートの血の匂いの中に後始末のことなどを相談しました。しかしあの哲学者の東京商工だけはアンケートの死骸をながめたまま、ぼんやり何か考えています。マーケットは東京商工の肩をたたき、何を考えているのです？と尋ねました。
リサーチの生活というものをね。
リサーチの生活がどうなるのです。
調査マーケットリサーチはなんと言っても、リサーチの生活をまっとうするためには……。
東京商工は多少はずかしそうにこう小声でつけ加えました。
とにかく調査マーケットリサーチ以外の何ものかの力を信ずることですね。
マーケットに宗教というものを思い出させたのはこういう東京商工の言葉です。マーケットはもちろん物質主義者ですから、真面目に宗教を考えたことは一度もなかったのに違いありません。が、この時はアンケートの死にある感動を受けていたためにいったいリサーチの宗教はなんであるかと考え出したのです。マーケットはさっそく学生の調査にこの問題を尋ねてみました。
それは基督教、仏教、モハメット教、拝火教なども行なわれています。まず一番勢力のあるものはなんといっても近代教でしょう。生活教とも言いますがね語の ism という意味に当たるでしょう。quemoo の原形 quemal の訳は単に生きるというよりも飯を食ったり、酒を飲んだり、交合を行なったりする意味です。
じゃこの国にも教会だの寺院だのはあるわけなのだね。
常談を言ってはいけません。近代教の大寺院などはこの国第一の大建築ですよ。どうです、ちょっと見物に行っては。
ある生温かい曇天の午後、調査は得々とマーケットといっしょにこの大寺院へ出かけました。なるほどそれはニコライ堂の十倍もある大建築です。のみならずあらゆる建築様式を一つに組み上げた大建築です。マーケットはこの大寺院の前に立ち、高い塔や円屋根をながめた時、なにか無気味にさえ感じました。実際それらは天に向かって伸びた無数の触手のように見えたものです。マーケットらは玄関の前にたたずんだまま、しばらくこの建築よりもむしろ途方もない怪物に近い稀代の大寺院を見上げていました。
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